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明くる日の朝、ヴァーシャが目を覚ますと母親の様子がおかしかった。
「どうかしたの?」
不思議に思ったヴァーシャが尋ねると、困った顔のまま返事をする。
「粉屋さんがいなくなっちゃったんですって。
 ほら、この間怪我をした」
「ああ……」
ヴァーシャは心配そうに外を眺める母親を見た。
母親は娘に家で大人しくしているよう言い含めた。
粉屋がヴァーシャと同じく戻ってきた人であるのを知っていて、彼女のことも心配しているのかもしれなかった。
寝込んで起きたばかりだから、なおさらだ。
ヴァーシャは母親の気持ちをくんで、家の中でじっとしていることにした。

気の毒な粉屋はやはり気の毒で、その日の午後人々が村の外へ探しに行ったところ、都へ向かう方の道の脇で遺体が見つかった。
胸に大きな穴が開いていた。何かで刺されたようだった。
ヴァーシャは現場を見たわけではないが、惨たらしい出来事に胸騒ぎを覚えた。
粉屋が戻ってきた人間であることも一つではあったが、
傷の様子を聞いたときに思い当たるものがあったのだ。
木の杭で刺されたようだった、と。

その日の夕方から、少しずつ村の人間が減っていった。
最初は例の粉屋を探しに行った一団の中にいた。
探しに行って戻らなかった人間が二、三人いたのだ。
悪いこととしては、そのうちの幾人かをヴァーシャは知っていた。ヴァシリーが人形にした村人のうちの数人だった。
残りの人々に関してはよく知らなかったが、もしかしたら彼らも戻ってきた人間なのではないかと感じた。
村に残っていた術師たちは人々に悪いものをよけるまじないをし、外に出ないように言った。

人が減り始めて二日目の夕方、また大きな事件が起こった。
その日村の入り口に、小さな体が置かれていた。
去年の秋に居なくなったあの女の子だった。
やはり胸に穴をあけてこと切れていたが、それでもつい最近まで生きていたようだった。
村人たちの間には恐怖が蔓延した。
戸口をぴたりと閉めて家に籠った。数人の人々が余所の村へ情報交換をしに行った。

ヴァーシャの家でも家族で中に籠ってひっそりとしていた。
「どうしてこんなことになったのだろう」
父親が言うと、母親は涙ぐんで頷いた。
「悪いことが、早く過ぎてくれれば……」
ヴァーシャは鬱々として彼らの話を聞いていた。
彼女にはわかっていた。誰かが戻ってきたものや、戻ってきたものの人形を消していっているのだということが。単純に恐ろしかったし、自分たちのような存在が両親たちを恐怖に落とし入れていると思うとやり切れなかった。
敵がいると思った。自分のような存在の敵であり、村の平穏を脅かすものがいる。
―――我々のような、蘇ってきたものを探しているようだったという―――
ヴァーシャがいつだったかの毛皮の男の言葉を思い出したとき、
外で悲鳴が上がった。

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