8

ヴァーシャが従兄に女の子の行方を尋ねに行ってから、二月が経った。
女の子は戻ってこなかった。
捜索は打ち切られ、村人たちは彼女はもう生きていないものとして、身代わりの人形を弔った。
きちんと弔いをしなければ、良くない形で戻ってくるからだ。例の儀式はきちんとした弔いの範疇に入るだろうか。

ヴァーシャはと言えば、ここのところヴァシリーを避けるようになっていた。
なんだか彼に会うのが怖かったのだ。
この間脅しめいた言葉をかけられたことが、ではない。
どちらかといえば、彼への疑いを口に出してしまったことについての方が気にかかっている。

しかし、彼女は何よりも、彼と手を繋いだ時に見えた、あの光景が怖かった。
力が強くなっている、というやつなのだろうか。ヴァーシャはひやりとする。
この間の従兄のとき程はっきりではないが、今でも時折人に触れると変な光景を感じたりするのだ。このままどんどんその回数が増えていったとしたら―――誰かに触れるたびに相手の後ろにあるものが見えるのでは、普通に暮らしてはいけないのではないだろうか。

従兄に会うのは躊躇われたが、そうであったとしてもそんな話ができる相手は彼しかいない。
会いに行くわけではないが、ふとした時に無意識に従兄のその特殊な気配を辿る。
そしてその日、少女は違和感を覚えた。

「二人いる……」

ヴァシリーと同じような気配が、二つあった。
ひとつは彼が「修行」している術師たちの庵。
村の端の方にひっそりと存在する。
そしてもう一つは、村に程近い森の中に潜んでいるようだった。

何だろう、とヴァーシャは思った。
彼女が確かめたわけではないけれど、例の儀式は定期的に村で行われている、と従兄が言っていた。同じような経緯で戻ってきた誰かがいるのだろうか。
知らず知らずのうちにそのもう一つの気配の方へ足を進めて行ったヴァーシャは、
村から延びる道からは死角になった小さな窪みに小さなテントが張ってあるのを見つけ、目を見張った。
テントは良いのだが、もう冬だ。今年は暖かい方だが、暖炉もない森の中。よっぽど良いテントと服を持っていなければ凍死してしまう。

「勝手に死んで勝手に戻ったのかしら」

ヴァーシャが呆然とつぶやくと、

「それは違う」

背後から声がした。

inserted by FC2 system