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「最後に見た人は昨日の朝に川べりで、だって」
「落ちたのかしら」
「だったらすぐに見つかると思うけど」
「川下だったら、祭の片付けで人が集まってたからすぐ見つかるわよ」
「森の方だってそうよ。昨日はどこにも人がいたわ」
「消えちゃったみたいね」
「まるで消えちゃったみたいね」
村の広場で祭に使ったポールを片づけながら、女の子たちが喋っていた。
二日前に行われた祭りの興奮もさめやらぬ中、村に住む女の子が一人いなくなった。
小さな村の中、隠れるようなところもないのに、誰が探しても見つからない。
人に言わずにふらふらと出かけたりする感じの子ではなかった、とヴァーシャも記憶している。川に落ちたか森に迷い込んだか、あるいは祭りに来たよそ者に引いて行かれたか、と、村人の間では騒ぎになっているのだ。
「やっぱり変な人が来て連れて行ってしまったんじゃないのかしら」
お喋りをしていた女の子の一人にそう言われ、ヴァーシャはあいまいに頷いた。
この村は外の人間への警戒心が強いそうだ。いつだったか訪れた旅人にもヴァーシャ以外に接触した人は見なかった。今は変なものが入り込んでいないか、男たちが村の周囲を見回っている。
変なものが入り込んでいないか。
ずいぶん昔から、人ではないものが村に入り込んでいることを彼女は知っている。
「私、ちょっと家の方を見てくる」
ヴァーシャはそう言うと、うわさ話に興じる娘たちに背を向けた。
*
家に向かうと口では言ったが、ヴァーシャの足は森の方へ向って行った。
人に聞かなくとも、目指す相手がどこにいるのかは何となく分る。その異質さは村を隔てたくらいでは薄くならないのだ。
人ではない何かが入った彼女の従兄は、森の入口で見張り番をしていた。
「あ、遊びに来たの?」
ヴァシリーはにこにこと手を振る。だいたいいつもこんな感じだ。
二週間ほど前になんだか気まずく別れた時も、次に会ったらにこにこしていた。
だからなのか、周囲の人たちは彼がもともとの彼と全然違うことに気付かない。
少女は従兄の脇にいる人物にちらりと目をやった。従兄が弟子入りしている術師の集団の一人だった。やあとかなんとか挨拶しているが、その瞳の色は虚ろだった。
「ねえ、いなくなった子に何をやったの」
ヴァーシャが口にした問いに、ヴァシリーは目を瞬かせた。
「何をやったって?」
「こないだ会ってたでしょ」
少女は強い口調で続ける。
「一週間くらい前に、あなたの家の裏で……ええと、なんか、くっついてたじゃない」
彼女の婉曲的な表現に、青年は緊張感なく噴き出した。
「見てたんだ」
「見てたんじゃなくて目に入ったの」
赤くなった顔を顰めるヴァーシャに、彼はゆっくりと言った。
「じゃあ、君が見たままのことしかやってない」
「嘘」
少女は憤慨して言った。
「だって、その後会ったらあの子、そこの人と同じようになってたわ」
彼女が指さしたのは、従兄の隣でずっと佇んでいる術師だった。
行方不明の少女についての会話が横で繰り広げられていても、まるで気にせず、ただ人形のように言葉に反応して相槌を打っている。何かが抜け落ちたような人間だった。