story

川を上って行った少年と大蛇の話 *3

サミルは助ける相手の反応に不思議そうな顔をしました。

「でも、君のご両親に頼まれたよ」
「去年までも幾人か大蛇のところまで行ったのよ」
「行ったの?」
「行って、諸共に喰われたの」

少女は俯いてそのときの話を始めました。どんなつわものが向かっていっても、彼らは大蛇の一息で動けなくなり、尾の一振りで死んでしまうのです。大勢で向かっても八本の首でどうとでもなるのです。
話を聞いて表情を止めた少年を、少女は恐怖で竦んだのかと思いました。
しかし、彼の瞳に浮かんでいたのは感嘆と期待の色でした。



「すごいなあ」
少年の言葉に少女は面食らいました。
サミルは興味深く話に聞き入っていたのです。
「そんな力を持ったものが、まだいるんだ」
「まだ、って」
「ある程度強くて荒ぶる神は、随分昔にあらかた倒されたはずだろう?」
「……王家の世界の統一の話?」
「君たちの神はそれをすり抜けたんだね」
「褒めているみたいだわ、それじゃ」
少女はひどく複雑そうな顔をしましたが、ようやく目の前の少年自体に興味を持ったようです。

「あなたはそれで、どうするの」
「うん」
少年は口を開きかけましたが、ふとそれを噤み、そしてまた開きました。
「そういえば君はどうするの?」

*

「なんのこと?」
「何って、君これから大蛇に食べられちゃうんでしょ?それはいいの?」
少女はそこでぎょっとした表情になりましたが、
「だって……それは運命だもの」
「運命か」
サミルは眼を細めて、その後少女をじっと見つめたので
少女は少々いたたまれない気持ちになりました。
「わたしは、もういいから……あなたはとにかく先に行って。
 もう変えられないことがここには沢山あるの」
サミルはそれを聞いてにっこりしました。
「じゃあ、僕は君の運命を壊しに行こうかな」
目を丸くした少女に微笑みながら、

「変えられないものを壊すのが、僕の仕事だから」

剣の柄を撫でると、それにあわせてぶるりと空気が震えたようでした。




*

その頃の王宮。
「サミルは多分大蛇の方へ向かっているだろう」
「大蛇?」
ルキの唐突な言葉にザラが顔を上げます。
「私はそんな話は聞いてないぞ!」
「君に話したら喜び勇んで退治しに行くだろう」
「わざとか!私が行ってはいけないというのか?」
「刀を突きつけるなザラ」
眉間に切っ先が当たっても弟王子は冷静です。



「あの土地はまだまだ創造主の作った“仕組み”が根強い」
「バランスを崩すと世界ごと壊れるというやつだろう、ようは」
「ようはとかいいながらわかってないだろう」
「わかる!」
「ようは大蛇を倒すのは、変わりにあの土地の仕組みの中に組み込まれるものでないといけないのだ」
「なんか今スルーした?」
「うちの家系にはそっちの力を持つ人間がなかなか現れなかったからな」
なんだか弟の話が独り言の様相を呈してきたため、
姉は非常に不愉快そうな表情になって言いました。
「つまり、私ではなくサミルでないといけなかったと」
テンションを下げた姉に弟はようやく頷きます。

「"包むもの"に選ばれた君でも、"繋ぐもの"に選ばれた私でもなく―――
"絶つもの"に選ばれた、サミルでないといけないのだ」

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