橋の破壊によって意気投合したサミルと老夫婦は、その後も川にかかっていた幾つかの橋を落としました。
サミルは一振りの剣で一気に橋を粉砕します。地面もえぐります。
笑顔です。物腰は柔らかです。しかし行動からして明らかに異様過ぎます。
「あんたはどこぞの武人かね」
老人に聞かれ、サミルは首を振りました。
「大したものではないけど」
王子ですが。
「この土地でとりあえずやることを探してるんだ」
ずっと怪訝な顔をしていた老夫婦でしたが、サミルの言葉を聞くや否や、二人でひそひそと話を始めました。
話がまとまったらしい二人がサミルに申し出てきたのは、神退治の依頼でした。
実は彼らが橋を壊していた理由というのは、
この土地の神にあるというのです。
*
神さまは頭8本、鬼灯のような真っ赤な眼をした小山ほどもある蛇だというのですが。
「われらの先祖の代は川を治め人々に恵みをもたらしてくれたが、
今となってはただ欲に任せて暴虐の限りを尽くすばかり。
毎年われらの娘を喰らいに来るようになりまして
今年は一人残った末娘の番なのです」
川向こうの神をこちらに渡さないための破壊活動でしたが、果たしてそんな大蛇が橋を使うのかどうか疑問です。
しかし色々突っ込むべきサミルは能天気な彼にしては珍しく
なんとも複雑な表情で老夫婦の話を聞いていました。
話が終わると暫く黙っていましたが、やがて微笑んで言いました。
「つまり娘さんを助けるんだ」
そして少し首をかしげて、
「その娘さんは一体どこにいるのかな?」
*
サミルたちが談合していたそこからまた少し川をさかのぼった所に、
一人の少女が佇んでいました。
髪を両耳の上で結い上げ、老夫婦とは異なる布の多い衣装で
一心不乱に川を睨みつけていました。
老夫婦に言われて下から上がってきたサミルは、
相手がこちらに気付くまでちょっと彼女を観察しようかと思いました。
綺麗な顔に合わない鋭すぎる眼が面白かったからです。
「……何か御用でも」
相手は気付いていたようでした。
「こんにちは」
「……こんにちは……」
無邪気ともいえる気安さで声をかけてくる少年に戸惑い気味の少女。
警戒心を溢れさせつつ、
「旅の人なら、あんまりこの辺りに留まらない方がいいわよ」
意外と親切なことを言いました。
「大蛇がいるから?」
「知っているの」
少女はサミルの言葉に驚いたというよりも少々気の毒そうな顔になって、
「悪いことは言わないから、先に進んだほうがいいわ」
囁くように言いました。