story

守を探しに行った王子と従者の話*9

「ユーリ!」
剣を抜いた王子は、大蛇に斬りかかりました。
首を斬りつけ相手の動きがにぶったところを、すかさずナギが回収します。
アルファは慌ててユーリに駆け寄りましたが、蛇の毒に触れた彼女はぐったりとしたまま動きません。
「ユーリ」
泣きそうな声を出す王子を見て、従者は優しく微笑みました。
「王子……私は知っていました。最初から、あなたが、王族ではないことを」
なんの話だか分からない王子に向かい、ぽつりぽつりと語りだしました。
「あなたは私の目の前で、
知らない男に殺されたのです」



*

王宮に来て最初にユーリが命じられたのが、
どこかに隠れてしまったアルファを探すことでした。
ちょろちょろと探し回り、やっと王子を見つけたときでした。
ユーリの目の前で、いきなり彼は斬り殺されたのです。

自分と同じくらいの子どもが殺されたことが恐ろしく、
どうしていいか分からなくなったユーリはひたすら祈りました。
そこで声がしました。
「娘、その子どもを甦らせたいか?」
そこは、宝の部屋でした。

首飾りに誘われたユーリは、どこかから王子を連れて戻ってきました。
その後別件で捕えられた殺人者は、
王子と全く面識のない人物だったことがわかりました。
友人や部下といった近しい相手に殺されるよう"呪い"をかけられているはずの王族なのに。
「私は……噂通りあなたは王子ではないと思いました。いつかそれが明るみに出るかもしれないとも」



一族に知らせてここを突くのも良いかと思いました。
しかし、何かの刷り込み効果なのか、王子はユーリのことを信頼し、
時折腹が立つくらい無邪気に慕ってきました。
だんだんユーリはアルファのことを大事に思うようになりました。
「王子だとか王子でないとかに関係なく、私はあなたの傍にいたかった」
最後にあやすようにアルファの頬を撫でると、ユーリは動かなくなりました。

*

アルファは冷たくなっていくユーリの身体を抱え、暫く無表情なまま黙り込んでいました。
今までとは人が違ったような様子に、心配したナギが声をかけます。
「アルファ」
「私はユーリを助けに行く」
王子は顔を上げると、まっすぐにひとつの方向を見つめました。
「方法があるのだろう、首飾りよ」
先程のユーリの話が本当ならば、首飾りには死んだものを連れ戻す力がある筈です。
かつて幼いユーリがアルファに対してしてくれたように。
「今度は私が迎えにいくんだ」



「気紛れで前例を作るものではないな」
首飾りは面倒くさそうでしたが、アルファに向かって柔らかく言いました。
「黄泉への道を作ってやろう。
ただし幾つか掟がある。それを破れば―――戻るときは一人だよ。良いね?」

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