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守を探しに行った王子と従者の話*10

物言う首飾りを首から下げて黄泉へ降りたアルファは驚きました。
そこは桃色の花がたくさん咲いていた、あの場所だったのです。
アルファはユーリを探して歩き回ります。
ようやく見つけたとき、
彼女は茂みの傍らにぼんやりと座っていました。



「ユーリ……!」
アルファは喜んで駆け寄りましたが、呼んでもゆさぶっても相手の反応がありません。
不安で胸がはち切れそうになる王子でしたが、思い付いて首飾りを振りました。
するとさらさらという音と共に、ユーリの目に光が戻ってきました。
「王子」
記憶が曖昧になっているらしく、ユーリは一瞬不思議そうな顔をしましたが、
周りを見回して状況を理解しました。
「あなた、まさか」
「迎えにきた!」
王子は急いで言うと、彼の従者を抱き締めました。
従者はやはり言いたいことのひとつふたつあったのですが、
小さく息をつくと、幸せそうに微笑みました。
それを見て、王子も嬉しそうにしました。
「帰ろう、ユーリ。私の傍にいておくれ」



*

二人は地上に向かって歩きだしました。
死者には地上への道が見えないので、アルファがユーリの手を引いて歩きます。
行きには見られなかった怪物のようなものが二人の前に現れましたが、
首飾りの音を聴くと皆眠ってしまうのでした。



そんなわけで特に障害もなく進んでいく二人でしたが、
アルファは道が細くなっていくのだけが気がかりでした。
二人前後にならないと通れず、ユーリの姿が見えなくなってしまうのです。
首飾りは言っていました。
地上への道に入ったら、けして後ろを振り向いてはいけないよ。
もしこれを破れば、二人で帰ることはできません。

*

考えるほど不安になるもの。
黄泉に暮らすものたちのたてるざわざわとした音と暗闇の中で、
アルファが感じられるユーリは少し冷たい彼女の手だけでした。
この手が抜けてしまえば、二度と二人は会えなくなってしまいます。
それを思う度にアルファは心細くなりました。



だから彼は、地上の明かりが見えてきたときほっとしました。
「ユーリ、出口だ」
返事は彼の耳に届きませんでした。
「ユーリ」
再び呼び掛けたとき、不意に王子は手の中が軽くなったような気がしました。
不安に駆られた王子は思わず後ろを振り返りました。

後ろには驚いた顔をしたユーリがいましたが、
アルファがその顔をみとめると同時にさらさらという音と声がしました。
「振り向いたな、少年よ」

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