NOVEL

黒い樹と二つの太陽の話 *6

一つの太陽が飲み込まれて、二つめの太陽は我に返りました。
二つ目の太陽は、もともと照っていた古い方の太陽でした。
余りのことに思考停止していましたが、
二つ目の太陽は闇の中心にいるのがまだ子どもも同然の娘であることを思い出しましたし、
更にはその娘のことを知っていることに気づきました。
二つ目の太陽は抵抗を始めました。

黒い樹は獲物の抵抗を感じました。
影で覆われてはいるものの、熱と光を振りかざされ、新しい身体はぼろぼろになっていきます。
黒い樹は不快に感じました。急いで体を強くし始めます。
焼かれた娘の肌はぼろぼろと剥がれ落ちて、
その下からはやはり硬く艶やかな黒い体が現れました。
―――これでもう、傷つけられることはない。
黒い樹は満足気に自らの手足のような闇を広げ、一つ残った太陽に食らいつきました。

しかしそこで、声がしました。
「何を……しているのだ」
社の入り口で苦し気に声を張り上げたのは、太陽たちを諫めに来ていた里長の息子でした。
彼は青い顔をしながらも、目の前で起こっている戦いをしっかり見ていました。
真っ黒く変わりながらも、見慣れた娘の顔を見ていました。
「どうして、お前に何があったというのだ」
里長の息子には、なんとなく娘がもう娘でないことを感じ取っていました。
しかし、以前のように呼びかけるしかありませんでした。

二つ目の太陽は既に半分以上が飲み込まれており、
辺りはどんどん薄暗くなっていきました。
二つ目の太陽は、里長の息子に助けを求めています。
このままではいけないと思った里長の息子は、太陽を飲み込む闇の中心である娘のところへ突き進んでいきました。

二つ目の太陽を自分の内に収めようとしていた黒い樹も、
何か変な感じをこの青年から受けました。
里長の息子―――と黒い樹が認識しているわけではありませんが、ともかく彼の苦しそうな声にはやけに不快にさせられましたし、そちらが気になってうまく動くことができません。
困惑していると、里長の息子が近くまでやってきました。
近付いた彼は少しずつ命を吸い取られていましたが、それにも構わず言いました。
「やめておくれ、この太陽はまだ里に必要なのだ」
滑らかな黒い手を里長の息子が握ると、それは微かに柔らかく、ほの白く変わっていきました。

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