NOVEL

黒い樹と二つの太陽の話 *5

社の外で話し合いをしていた二つの太陽は、
何か小さなものが山の麓から登ってくるのに気付きました。
それはまだ若い娘のようでしたが、ふらふらと覚束ない足取りで、
裸足のように見えましたが、顔に比べて足は真っ黒でした。
更には、彼女の周りだけ影になったように、
黒っぽい空間があるようでした。
気のせいかその影は、細い根が這うようにぐねぐねと動いているように見えました。

黒い樹は何かに導かれるようにやって来て、
なんだか大きい力の塊みたいなものを見つけました。
大変強い光を放っており、熱で周りはゆらゆらしています。
しかし黒い樹は暗く冷たく、
恐ろしく黒いものでしたので、光も熱も全て吸いとってしまいます。
黒い樹は強いものと出会ったとき、自分がどうするべきだったのか考えてみました。

二つの太陽はいよいよびっくりしました。
娘からなにやら黒っぽい影が、ぐねぐねと太陽目指して這ってくるのです。
光が落ちてもその影は影のままで、その暗さを増したようにさえ見えます。
二つの太陽に焼かれて白っぽく乾ききった地面は、いつしか白と黒の唐草紋様でびっしりと覆われたようになりました。
大きな太陽たちは上手く動けずに、ただ近づいてくるそれを眺めるしかありませんでした。


人々は目を丸くして山の方を眺めていました。
山腹をゆっくりゆっくり進んでいた黒い塊が、太陽を前にして伸び上がったのです。
そして山を登っていたときのようにゆっくりと、黒いものは太陽を飲み込み始めました。
日差しが少しずつ弱まり、辺りが涼しくなってゆきます。人々は今がまだ春のはじめだったことを思い出しました。
気付けば山の頂きに見えるのは、以前と同じ唯一の太陽です。
人々は快哉を叫び、手を取り合って喜びました。
黒いものがもうひとつの太陽を飲み込み始めるまでは。

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