NOVEL

黒い樹と二つの太陽の話 *3

ふとクラの樹は思い出しました。
別に花を咲かせなくとも良かったのです。自分で咲かせる花があんまり美しかったため、すっかり忘れていましたが。
ちょっと花咲にも飽きてきたし、別のことをしてみよう。
クラの樹はその黒い体の中で、自分が出来ることについて考え始めました。

*

人々は落胆しました。
生贄の娘を埋めてもう一月ほど。
しかし、クラの樹は何も変わらないのです。
里長の息子のほうも、再三二つの太陽の説得を試みていましたが、焼け付く光は強くなってゆく一方でした。
もう八方塞がりとも言うべきなか、人々はただどんよりと日々を過ごすばかりでした。

そんな中、里長の息子は可哀想な生贄の娘をきちんと弔ってやることにしました。
土の中から出してやって、お墓に移してあげるのです。
残念なことに彼は二つの太陽を諌めにいかなければならなかったので、
人々に黒い樹の根元を掘り返すように言ってから出かけました。
人々は渋りましたが、里長の息子の言うことです。
みんなで集まって、娘を埋めた辺りを掘り返し始めます。
土の中で一月。白く柔らかく綺麗だった娘の体も、さぞかし無残なものになっているでしょう。
しかし掘り進めて突き当たったそこから現れたものは、
埋められる前と少しも変わらない娘の姿でした。


黒い闇色のクラの樹は、自分の中に何か導くものがあるのを感じました。
いつもと何か違うのです。樹の内に取り込まれながら、微かに反発する、何か別の存在がいるのでした。
それは明らかにどこかへ向かいたがっています。
初めての感覚に引っ張られて、黒い樹は脚を動かしました・・・・・・・・

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