NOVEL

黒い樹と二つの太陽の話 *2

里の人々は減っていきました。
倒れたり逃げ出したりしましたが、太陽の勢いは衰えませんでした。
里長の息子は心を痛めていました。片方の太陽をなくす方法は考え付きませんでした。

ある日、里長の息子の傍に仕えていた娘は言い出しました。
「私が生贄になってきます」と。
勿論言い出しました。当然の結果だったのです。
娘の家は代々里長の家に仕えてきた家でした。大変忠実で、里長のために尽くしなさいと教えられ続けてきた家系でした。実のところ、行きすぎじゃないかと里長の家でも問題になっていたくらいです。
そんな家に生まれた娘が、里長の息子の顔を見て、何もしないはずはなかったのです。

里長の息子は止めましたが、多くの人にとってはまたとない申し出です。
彼女の気が変わらないうちに、早々に儀式をしようということになりました。
勇気ある決断だといって娘の親や兄弟たちは彼女を褒めました。
「僕はそれが最良の方法だとは思わないよ」
里長の息子だけがそんな風に言いました。
「いいえ主様」
生贄の娘はいいました。
「私は私の願いを叶えるために行くのです。
他の者に任せるなど心もとないから自分で行くのです」

いったいお前の望みとは何なのだ、と里長の息子は訪ねましたが、
生贄の娘は微笑むだけでした。
「愛しい私の主様」
彼女は言いました。
「私はあんなものを太陽だとは思いません。
里の者とあなたを苦しめるようなものは、ふさわしくありません」

里のものは太陽から見えないように、こっそりと儀式をしました。
清められて白色の衣に身を包んだ娘は、ひっそりとクラの樹に捧げられました。
小さな望みを持った命をクラの樹が受け取りました。

今まで花を咲かせるのに必死だったクラの樹は、ふと余裕が出来たのに気づきました。
今まで吸っては吐き出していた何かのバランスが崩れたのを感じました。
クラの樹は昔のことを思い出そうとしました。
クラの樹は、わが身の内をくるくるとめぐりはじめました。

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