NOVEL

落ちてきたものの話 11

突然の少年の登場に驚いて言葉を失った医師たちでしたが、
一瞬の空白の後、戦力にならなそうな数名が逃げ出します。
医師や少年のお付き―――だったものたちなど、残る数名は少年の方へ向き直りました。

「マアル様」
医師が言いました。
「今まで一体どちらに?」
「そんなことどうでも良いだろう」
少年はとんとんと段を降りながら、医師たちの方へ近寄って行きます。
昼食を食べに降りてくるときのような、軽やかな足取りで。
「とりあえず、僕に謝ることとかは無い訳?」

「何も」
医師たちは言いました。
「我々はあなたの家に仕える人間として、末子のあなたよりも兄上様が玉座につくべきだと考えております。
意見を変えるつもりもございませんし、まだあなたは正式に王として即位したわけではありません。そういう意見を持っているというだけで謝罪をすべきでしょうか」
「でも僕を刺したのはお前の部下だよ」
少年は微笑みながら、両手の平を上にあげるという動作をしました。
「寝床の支度とかをしてくれる女の子だよね。名前は知らないけど、僕が小さい頃から家にいたんじゃないかな」
「何を言うのです。どこにそんな証拠が……」
広場の真ん中で、医師たちがざわめきます。
少年はあっけらかんとした調子で返しました。

「証拠も何も、僕見てたし。凶器だってこっちが持ってるし。
丁度良いからこういう奴らを一網打尽にしちゃおうって思ったんだよね!」
「凶器は……」
始末したと言っていたのに。
その言葉を飲み込んで、医師たちはふと思いつきました。
一網打尽。
その言葉の意味するところはつまり―――

「では、この療養地に連れてこられた者たちは」
お付きの一人が言いました。
「皆……」
「そうそう、怪しいやつを選んで、全員ここに連れてきた」
何かしてくるかなーと思ったのに、何もしてこないから困ったよ、と少年は言いました。
一応次に何か危害を加えられるまで待つ気はあったようです。
しかし一緒に連れて来られた者たちは、改めて疑われることを心配したのか、互いに疑心暗鬼にでもなっていたのか、あるいは単にタイミングを逃していたのか、なかなか少年に手を出してきませんでした。
「では、あなたはわざわざ敵だけを集めてその中で機を待とうとしたのか!?」
少年は肩をすくめるようにして、頷きました。

「この広場の罠を発動させた術師のことも、僕が拾ったあいつが見てたし。
父さんが使ってた奴だったね」
医師ははっと顔を上げました。
「お待ちください、旦那様や兄上様たちご本人は関係ありません!我々のやったことは―――」

彼らの青褪めた声音に、
「心配しないで良いよ!」
少年は明るく返します。
「もう皆処刑しちゃったからね!」

inserted by FC2 system