NOVEL

落ちてきたものの話 12

少年と対峙する彼らは、一瞬言葉を失いました。それから唇を震わせて、
「あなたは―――」
言いました。
「あなたは、実の親兄弟を」
「自分のことを棚に上げてって言うんだよ、そういうのは」
少年は言いました。
「一回謝罪したけど、隙を見てまた切りかかってこようとするものだからさ……まあ仕方なかったんだ。
そういうことだから、お前たちも―――」

少年は言いかけて、身体をくるんと反転させました。
すぐ横を小さな矢の様なものが通り過ぎていきます。
「わ、危ない」
続いて飛んでくる飛び道具を避けようと小走りに移動したところで、お付きの彼らに押さえつけられます。
すぐに側の茂みに隠れていたらしい少年が連れてきた兵士たちががさがさと現れましたが、
それよりも早く医師が何ごとかまじないを唱えました。
兵士たちが駆け寄ろうとすると、見えない壁に阻まれてしまいます。

「お前もまじないが使えたの?」
医師の様子を見た少年は、目を丸くして言いました。
兵士たちは見えない壁を鎧で叩いたり、剣で斬りかかったりしていますが、そういったものではちっとも歯が立たないようでした。
医師は硬い笑みを浮かべて少年を見下ろしました。
「なにぶん最近かじっただけのものでね、大したことは出来ませんよ。
しかし毒を食らわば皿までだ。ここであなたには死んでもらう」

そういうと、医師は懐から何やら小さな袋のようなものを取り出しました。
それを自分たちの周りに撒くと、再びまじないを唱えます。
幾度か上手くいかなかった様子で、唱えなおしをしています。
その様子を少年は抵抗するでもなく、お付きの者たちの下でじっと眺めていました。
「なぜ抵抗しない?」
視線が気になったのか、医師は苛ついた様子で少年に言いました。
「ふふ、抵抗して欲しいのかい?」
少年は余裕さえ湛えた微笑とともに答えました。
「お前の発音変なんじゃない?もしかして―――」
こうじゃない?

少年は医師を真似てまじないを唱えます。
医師のぎょっとした顔に少年を押さえつけていたお付きたちがはっとしたそのとき、
見えない壁の中を炎が覆いつくしました。

「馬鹿な―――」
医師たちは自分達がやろうとしていた事のはずなのに、炎をばたばたと払いながら叫びます。
「何故自分からそんなことをする!?あなたは一体どういうつもりなのだ」
「だからねえ」
少年は心の内で、炎に怯みながらも自分を押さえつけたままのお付きたちに感心しながら言いました。

「言っただろう、僕を王に選んだのは運命だ。
運命試しだよ。僕が相応しくなければ、お前たちと一緒に僕も燃え尽きるだろう。
僕が本当に選ばれているのなら、自分の点けた炎なんかで死なないよ」

「めちゃくちゃだ」
お付きの者たちは眉を顰めました。炎の中で空気も薄くなり、熱気と煙―――何が燃えているのかもはや分かりませんが―――の中で何も見えなくなります。
お付きの者たちは、うわ言のように言っています。めちゃくちゃだ、と。
少年は楽しそうに笑いました。
「そうでもないよ」
少しばかり息が苦しくなってきたのを感じながら。

「そうでもないよ。前から、確かめてみたかったんだから―――」
親兄弟に阻まれながら、そこに立つのに果たして自身が相応しい者なのか。
目の前が紅く明るく、燃えているのに―――暗いな。
そう思って顔を伏せたとき、少年の耳に空気を劈くような轟きと、

「もっと―――」
聞きなれないけれど知っている、少し高いあの声がしました。
「もっと他にやり方があるだろう!」

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