NOVEL

落ちてきたものの話 10

「では、残っていたのはこれだけだった―――それで間違いないのだな?」
医師の言葉に、少年のお付きやメイドたちが頷きました。

彼らは森の中を歩いているところです。一人の掌の上には、
弱った小鳥が数羽抱えられていました。その小鳥たちは焼け焦げた薄い布に
包まれており、そしてそれは少年の身に付けていた飾り帯なのでした。

「いったいどういうことなんだ」
医師が言いました。
「穴が空いた魔法陣に、いなくなったマアル様。姿を消されてからもう一週間になるぞ……あの日は例の子どもを
共に連れていたな、あいつの仕業か?」
「知りませんよ」
お付きの一人が憮然として言います。
「分からないから皆で直に行ってみようということになったんじゃありませんか」

彼らが立ち止まったのは、昔歌劇にでも使われていたのでしょうか、
ちょっと開けた広場のような場所で、真ん中は焼け焦げて少し抉れていました。

「小鳥たちはこの辺りに」
使用人らしい一人が地面の一ヶ所を指差しました。
「もっと中心近くにいたのを、弾き飛ばされたのかと思われます」
「マアル様たちもか?」
「いえ……」

機嫌の悪そうな医師の声に、使用人の彼は言い澱みました。
彼らの中では医師は比較的高い位置にいるのか、少しばかり余計に気を使っているようです。
「……王都からは何と言って来ているのですか?」
「言っただろう、返答がない」
かけられた問いに、医者は答えます。お付きの者たちはざわめきました。
「マアル様の手前仰っていたのかと」
「違う。数日前から本当に連絡がないのだ。人をやっても戻ってこない」

人々の間に、不安げな沈黙が訪れました。
疲労と倦怠を湛えていた空気が、どことなくぴりぴりとしてきます。

「それでも」
とお付きの一人が言います。
「この飾り帯を見せれば、あちらを黙らせることはできるのでは?」
「駄目だ」
その声に苛つきを滲ませながら、医者は小さな、はっきりとした声で言いました。
「死体が無ければ、我等の勝利は認められない。マアル様の死を目に見える形で示さなければ、我らの主はその位置につけないのだ―――」

「残念でした」

唐突に、朗らかな声がしました。
笑みを含んだ若い少年の声です。

「随分大きな勘違いをしてるみたいだね」
広場に立っていた人々は、顔色を失って声の方向を振り返りました。

「僕が死んだからって玉座はおまえたちの思惑通りには埋まらないよ。
 玉座の主を選ぶのはね―――」
少年はうっすらと微笑んで、言いました。

「運命のすることさ」

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