NOVEL

落ちてきたものの話 09

さて、拾いものの―――彼女は、乾いた服に身を包んで、火の前に座っていました。
少年もその向かいに座ります。

「それで、聞きたいんだけど」
少年はちょっと不機嫌そうに言いました。
「もしかしておまえが魔女なんじゃないの」
「それは違う」
拾いものの彼女は間髪入れず、しかし落ち着いた声で答えました。
「本当かな……」
少年は納得行かずに口を尖らせます。
「女の子だって隠してたじゃないか」
「男だとも女だとも言った覚えはない」
彼女は表情を変えずに言います。あまり喋りたくないようです。

「なら良いんだ。その方が話は簡単だし」
少年は言って目を閉じました。
彼が黙ると、二人の間に沈黙がおります。彼女は何か思い直したのか、珍しく自分から口を開きました。

「……魔女を疑うならば、広場の上にいた者の方がよっぽど怪しい」
彼女の言葉に、少年はおや、と目を開きました。
……話題を変えたいのかな。
少年は心の内でそんな風に考えながら、彼女に向かって手を振りました。
「ああ、あれはどうだっていいんだ」

拾いものの彼女は怪訝な顔をします。
少年は彼女の顔をちらりと見ましたが、すぐに火の方へ視線を戻し、ときどき瞬きをしながら眺めていました。

「僕は」
ゆっくりと少年は言いました。
「おまえを信じていいのかな」
いつもよりずっと落ち着いた声で、ふざけたような響きはありませんでした。
拾いものの彼女は少年を見ていましたが、さりげなくその視線を逸らします。

「おまえは自分のことを話さないし、知られたくないと思ってる。
傷を見られるのも嫌がってたね。それはおまえの正体に繋がるものなのかな」
少年は思案げに言います。
「傷なら僕にもある」
もう殆ど消えてるから気付かなかったろう、と少年は言いました。
拾いものの彼女が目を見張ると、ちょんちょんと自らの胸の辺りを指差しました。

「ここには療養に来たんだ」
少年は言います。
「刺されたんだよ、家の中で。犯人はまだ捕まってない」
周りの誰が敵でもおかしくないって訳。少年は軽い口調です。
「言ったよね。一緒にいる者たちは、信じられるか、信じられないか、ちゃんと考えて……ここまで連れてきた。決まってないのはおまえだけ」
「……信じて良いと言って欲しいのか」
拾いものの彼女はそんな風に、愛想も同情も見せずに、返して尋ねました。
少年はくつくつと笑みを零しました。

「そんな訳無いでしょ」
少年は楽しげに言います。
「良いね、おまえの態度は……」
そして、洞の入り口の方へ視線を走らせました。
遠くからさくさくと、草を分け入るような音が聞こえてきます。

「お迎えだな」
少年は言いました。

「おまえはどうする?」

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