NOVEL

鬼灯の生まれなおしの話

ばらばらと崩れながらも、優雅に、楽しげに歌いながら流れの中に身を委ねていたそれは、
少しずつ流れが緩やかになってきた頃にあるものを見つけました。
それは岸辺に息を潜める小さな生き物でした。
生き物は何かに追われてでもいるのか、気配を殺して少しずつ少しずつ動いてきたようです。
奥深い山の中で、草木の中をごそごそしています。

ああ、ちっぽけな生き物だな。
流れてきたそれは思いましたが、自分とて今は殆どの力を殺がれて流れているわけです。
それを思い出して愉快な気持ちになると、これは丁度良いかもしれないぞと思いました。
あれを喰って体の足しにすればいいのです。
実のところ、それは今首だけで流れていたのでした。


岸辺を動いていた生き物は、川の方には注意を払っていませんでした。
彼や彼の種族は、特に川を得意としているわけではありませんでしたし、
上流の方で何かあったらしく、いつもより激しい流れの中、追っ手が現れるとも思いませんでしたし―――

しかし、それは現れました。
真っ白い塊が、濁流の中を流れて来たにしてはあまりにも白い塊が、
岸辺を動く小さな生き物に踊りかかってきたのです。
死角からの思いがけない襲撃、顔面にまともにかかる水飛沫。
小さな生き物は自分に覆いかぶさったそれがなんだか分かりませんでした。
ただ真っ赤な、恐ろしく鮮やかな二つの瞳を見ながら、
小さな生き物はあっという間に意識を失いました。
あっという間に生命を失いました。


小さな生き物に襲い掛かって飲み込んだものの、
やはり小さな生き物は小さな生き物でした。
その上額に小さな角が生えていたため、それの口の中は切れてしまいました。
川から上がったそれは今しがた飲み込んだものを使って、急いで身体を構築しますが、
力の不足を反映してか、やはり小さな身体にしかなりません。
意外にもその作業は力を使うもので、
身体を作り終えた頃、それはぐったりと地面に伏してしまいました。


それが眠ってしまい、一晩明けて、川の流れも十分に落ち着いた頃。
今は亡き小さな生き物を探しに、追っ手がひとりやってきました。
小さな生き物が自分の縄張りに勝手に入り込んだので、つまみ出そうというのでした。
追っ手は小さな生き物よりは大分強い力を持っており、
額には深い緋色の角が三本生えていました。
明るい満月のような黄金色の髪の毛をふわふわとさせながらのんびりゆったりと歩いてきて、
そして地面に伏した見慣れないものを見つけました。

「なんだ」

ぐっすりと眠っているそれを見て、追っ手は顔を綻ばせました。

「まだ子どもではないか」

ぬかるんだ川岸の土の上に無造作に寝転がっているそれは、
様々な色を映す不思議な色の髪をしていました。
まだ幼いながらも美しく立派な五本の角を生やしていました。
その中の二本は少し変わった形で、鹿の角のように先が分かれています。

子ども好きだった追っ手は、眠りこけている子どもをそっと抱かかえると、
行き倒れの同族の子どもを拾ったつもりで、自らの住まいへと戻っていきました。

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