NOVEL

箱庭の話

彼らは自分たちが許されないことを知りました。

ほんの少し離れただけだったのに、そこはもう彼らを受け入れる場所ではなくなっていました。
より正確に言えば、そのほんの短い間に、彼らは変わってしまったのです。
早いうちにそれに気付いた彼らは幸運でした。
彼らは人の居ないところを目指して歩きました。
人が居ないところでも彼らは幸せでした。
彼らは彼らだけで幸せでした。

辿り着いたのは美しい谷でした。
四つの季節を一度に見ることができました。
彼らは彼らだけでも、ここに居れば飢えることも凍えることもありませんでした。
美しい桃色の花は彼の地を思い出させるものでしたが、
特に不快なものでもありませんでした。
彼らは小さな家を建てて暮らし始めました。

彼らはすぐに気付きました。
お互いの背中にあるしるしにすぐに気付きました。
そのしるしの意味にもなんとなく気付きました。
この谷の意味にもなんとなく気付きました。

彼らは世界の模様の中に入れなくなりましたが、
彼らは二人でひとつの模様を作ることができました。
模様をはぐくむ為の箱庭も貰いました。
許されないもののしるしを持つ二人は、だからとても幸せでした。
箱庭に閉じ込められても、幸せでした。

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