story

川を上って行った少年と大蛇の話 *11



「あなたはこれからどうするの?」
水が引いた後、少年少女は流石に疲れて社の残骸の上に座り込んでいました。
少女の問いに少年は答えます。
「いきなり結構大きな事が起こったから、とりあえず家に帰ろうかな」
「そうなの……」
少女はなんだか怒ったような顔をしましたが、声は悲しそうでした。
「じゃあ家に戻りましょう。さっさと体を整えて」
「その前に」
少女の言葉を少年は遮ります。
「ええと」
遮った割に一度口ごもる少年。
「君の名前を教えてくれないかな」

*



少女が信じられないというような顔をしたので、少年は少し心配そうな顔をしました。
「あなた、今の今まで私の名前を知らないで一緒にいたの?」
「いや……おじいさん達に聞いたけど」
少女の言葉に珍しく困り果てた様子の少年。
「あのね、この地方に来る前、僕ちょっとこの辺の文化を勉強したんだけど」
「文化?」
「名前を尋ねるって、結婚の申込の意味じゃなかったの?」
少女はきょとんとした後、顔を真っ赤にして言いました。
「それって……多分百年以上前の風習だと思うわ」
「ほんと?」
目を丸くした少年でしたが、次の瞬間には笑いだしていました。
「だったらうちの方の習慣でいこうか?」
「……どういうの?」
「『僕は君にだったら殺されても良いと思ってるよ』」
「そんなの嫌だわ!」
「僕もやだ」
憮然とする少女に少年は微笑みかけます。
「僕は君と一緒に生きていきたいな。
 百年前のつもりで聞いて―――名前を教えてよ」

少女は頬を染めたまま眉を寄せて俯いていましたが、やがて意を決したように言いました。
「私の、名前は―――」





(めでたしめでたし)

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