story

川を上って行った少年と大蛇の話 *9

あたま、頭。
頭部を意識すると同時に、今度は体全体に感触が蘇ります。
暖かく締め付けるような感覚。
不意に、サミルは少女が彼にしがみついて怒鳴っているのに気付きました。
「この人はあなたとは違うわ!変なこと吹き込まないで!」
少女はしっかりとサミルを抱えたまま、今度は彼に向かって言います。
「壊すだけじゃ駄目なのよ。あなたが運命を壊したいと言ったのは何の為なの?
壊した後、そこに何かを生み出すためでしょう」



サミルはぽかんとして少女の言葉を聞いていましたが、
「そうか」
呟いて、微笑みました。
「そうだね……」
意識や感覚の次には、ゆっくりと力が戻ってきたようです。
暗闇をなんとか抜けようとしたサミルは、身体の中に違和感を感じました。
今まで使っていた力が、急にはっきりしたような。
そしてサミルは呼び掛けられた気がしました。

*



一時的にでいいなら、力を貸してあげようか?
頭の中に響く声は、先程の大蛇のものとは違う、中性的な声でした。
「な、なに?」
少女が緊張した顔で少年を見上げてきます。
選んであげよう。選ばれた中から更に、選んであげよう。
わたしに名前をつけるといい。


*

サミルには思い当たることがありました。
「剣か……」
「剣って、あなたのおうちの?」
声は笑うと、肯定の代わりに語り掛けました。
君のもとではわたしの力は出し切れないけれど、
しばらく一緒に旅したよしみで少しだけ力を貸してあげよう。
正しい契約の仕方を、知っているね?少年。
「赤い名前をつけるんだろう」
そう。
満足そうな相手に、少年は名前をつけてやりました。
いまだ力を貸し切ってはくれないらしい相手に、紅い名前を。



「紅蛹」

呼び掛けると、真っ赤な炎の塊が現れました。
「僕たちを外に出せるかい?」
炎はくるりと回り、羽ばたくようなしぐさをしてから言いました。
腕を振るってごらん、少年!

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