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川を上って行った少年と大蛇の話 *5

サミルと老夫婦は蛇を迎え撃つために祀りの場所へむかいました。
少女はとうとう顔を見せませんでしたが、不思議と離れている気がしませんでした。
「首をひとつひとつ落としていけば―――」
老人が話す声が、ふと遠くなった気がしたそのとき。サミルの回りを霧が取り囲みました。
なんだろう。
少し歩いて立ち止まったところで霧は薄くなりましたが、老夫婦とははぐれてしまいました。



ちょっと困ったサミルが耳をすますと、何者かの話声となにかが這いずるような音がしました。
どうも岩の壁の向こう側に誰かいるようです。
隙間に目を当ててみたサミルは、更に困ることになりました。




そこに居たのは人の背ほどもある二匹の蛇だったのです。
「贄はどこへいった」
彼らはきしきしと何かを探し回ります。
「あの身を喰えばぬしさまはもっと強くなられる」
「ぬしさまは王より強くなる」
よく聞けばその声は老夫婦のものではありませんか。
「どういうことだろう」
サミルが首を傾げると、
「どうもこうもないわ」
耳元で少女の声が響きました。


*





サミルの目の前に
ふわりと降り立ったのは、暫くぶりに顔を合わせる少女でした。
「あれ?」
同時に少年の結った髪が解け、背中にぱさりと落ちました。
留められていた櫛―――少女が、そこを離れたからです。
「彼らは大蛇の手下なのよ」
少女は口を尖らせて言いました。
「不審に思わなかったの?」
「言われてみれば挙動不審だったかも……」
「もう……」
少女は軽くため息を吐くと、
「さあ、騙されてたことがわかったでしょう。今のうちに逃げるか隠れるかして」
少女はサミルの手を引っ張りましたが、逆に引き寄せられて怪訝そうにしました。
「おじいさんたちか蛇だったのはわかったよ。
僕を蛇に食べさせようとしているんだね」
「そ、そうよ」
至近距離で囁くように尋ねるサミルに少女は一瞬色々な意味で焦りましたが、
「それなら、彼らと暮らし僕を助けようとする君は何なの?」
問われると、項垂れて片手を自らの頭に伸ばしました。

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