story

川を上って行った少年と大蛇の話

二人の王さまが世界を壊してまた一つにして更に100年程経った頃、
二つの血筋からなる王室は少なからず荒れていました。
もともと破壊衝動の強い血筋の中でも争うのが好きな子供たちが偶然集まったからか、
飛びぬけて力が強い子供がいなかったことが原因なのか、
時にどろどろした、時に真っ向勝負の後継者争いが繰り広げられていたのでした。

最も玉座に近いとされたのが、ザラとルキという双子の子供たちでした。
ザラは火のように苛烈な姉姫であり、ルキは氷のように冷たく平静な弟王子でしたが
二人手を組んで敵を蹴散らす叩き落とす、自分が倒れる時には周りも引き倒すという有様で
ともかく存在感を見せつけるのでした。


*

サミルはそんな双子の弟として生まれた王子でした。
最初の王さまによく似た黒い髪と茶色い丸い目をしていましたが、
王位には興味もなくのんびりとした性格をしていました。
ザラはそんな末子がふと心配になりました。
「お前みたいな心持の奴は本国にいない方が良い。
うっかり敵に利用されても困るし
あんまり無いこととは思うけど
何かの間違いで命を落としたらちょっと悲しくないこともない」
そんなわけでサミルは嫁いできた母の故郷に派遣されることになりました。



彼に与えられたのはマントに少量の食物、そしてひと振りの剣だけでした。
「視察して来いって言われてもどうしていいのかよくわからないなあ」
ぽとぽとと景色を楽しみながらもサミルはひとりごちます。
「とにかく何か斬ってて楽しいものがあるといいなあ」
王子は玉座には全く興味はありませんでしたし
非常にのんびりしていましたが、
最初の二王から脈々と続く問題の嗜好は、しっかり持っているようでした。


*

物心ついてから王宮で育ってきたサミルとしては
やはり母親の故郷は物珍しいものでした。
といっても彼が歩いていた所は山中も山中、文化を感じさせるようなものは全くありません。
更に何を間違ったかどんどん奥へと進んでいるようです。
それでもきょろきょろと景色を楽しんでいた彼は、川がせきとめられているところに辿りつきました。
川の流れを遮っているのは、明らかに人間の手による木材のようでした。



「吊橋か何かのようにも見えるけど、随分たくさんの量だなあ」

暫く下流から歩いてきた分には里は無かったようなので安心ですが、
不自然に留まった水はなんだか危険です。
それを知ってか知らずか、木材を流している人間がいる―――   

「何か面白いことが起こっているのかもしれないね」

剣の束を撫でながら頬を綻ばせると、サミルは早足で上流の方へ向かっていきました。


*

数十分か数時間か。
意外と強靭な身体を持っているらしい少年は特に気にしませんでしたが、
ともかく短くはない時間歩き続けると、斧の音がサミルの耳に響いてきました。



「何してるんだい?」

音の主は小さな橋の傍で破壊活動に勤しむ一組の老夫婦でした。
簡単な造りの小さな橋を斧で落としているのです。
華奢な体つきからは想像も出来ないパワフルさであるといえます。

「何ですかあんたは」
質問に質問で返された王子でしたが、特に気にせず名を名乗ります。
「通りがかりのただのサミルだよ」
彼の興味は既に老夫婦にはありませんでした。

「それ壊すの、僕にも出来るかな?」

inserted by FC2 system