story

常世の織物と旅人の話 *2

「ひ……」
少女は小さく悲鳴を上げました。
若い男の人の声です。しかも内容はそこはかとなくカツアゲです。
「あれ、もしや僕は不審人物かな」
少女の怯えを感じ取った青年は言いました。
「大丈夫だよー怖くないよーこっちを向いてー」
その台詞は少女の不審をますます募らせるだけでしたが、青年は気付かないようです。
少女が硬直したまま動かないので、彼女の前に回ってきました。



すごい格好してる、というのが少女による青年の第一印象でした。
長身の体に色とりどりの布をぐるぐると巻き付け、銀の古そうな額当てをつけています。
彼は興味津々の様子で少女の腕の中を眺めています。
「あ、あの……これ?」
彼女の掲げた籠の中に入っていたのは、甘い香りを漂わせる小さなお菓子でした。

*

少女がお菓子を差し出すと、青年は大変喜びました。
「旅人さんは、ご飯が食べれないの?」
嬉しそうにお菓子を頬張る彼に少女が訪ねると、
「旅人さん?」
青年はきょとんとしましたが、
「あ、いやちゃんと食べるものは食べてるよ。旅人さんかあ……」
その呼称がちょっと気に入ったらしく、青年はにこにこと繰り返します。
「じゃあ、甘いものが好きなの?」
「大好き」
旅人さんは幸せそうでした。




少女が持っていたのは、兄の夜食のデザートにと少女が焼いたお菓子でした。
舌の肥えた兄が、結局一口でやめてしまったお菓子でした。
「わたしの家、パン屋なの」
少女は言いました。
「甘いものが余ったら、明日持ってきてあげるね」

その日から、少女はお菓子が余ったり自分で焼いたりする度に、青いテントを訪ねるようになりました。

*




さて、お城では王さまが大臣を集めていました。
壁や床にはびっちりと織物が敷き詰められています。
「こちらが西の街の織師たちの作品です」
「こちらは南の街の織物屋が腕に寄りをかけた―――」
王さまは一枚一枚を大変興味深く眺めました。どれも素晴らしくはあるのですが、
突出した何かを持っているものはなかなか見つかりません。
「難しいな」
「一朝一夕にはいきますまいよ」
眉間に皺を寄せて織物鑑賞にふける王さまに、大臣たちのまとめ役・月読の大臣が言います。
「まだ東の市場には行っていませんから、
 今日はここまでにして、明日そちらを探しましょうね」
「そうです陛下」

鋭い口調と共に進み出たのは、綾目の大臣でした。
「こちらの話も聞いて頂かないと」

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