story

常世の織物と旅人の話

暮れも押し詰まったある晩のこと。
大きな玉座の高い背もたれの上に座って、王さまは言いました。

「タぺストリーを作るぞ」



集められた大臣たちは、ぽかんとして王さまを見つめました。
「変な顔をするな」
王さまは怒りました。理不尽です。
大臣たちも反論します。
「意味が分かりません王さま」
「王さまの言うことはいつも分かりません」
「年の瀬に変なこと言い出さないでください」
「そもそも背もたれは座るところではありません」
「王さま麻雀やりません?」
次々にぴいぴいと責められて若い王さまはちょっと怯みましたが、
憮然として説明を始めました。

*

王さまは王さまになったばかりの王さまでした。
先代の王さまが王さまにしては珍しく大変お年を召したので、
急きょ即位してやっと2年といったところでした。
先代たちのように何か成し遂げたいのですが、
幸せなことに国の中に解決すべき問題はなく、人々はそれなりに楽しく暮らしています。
こんな時代が続いたら良いなあというような、つまり歴史的大事件を起こしにくい時勢だったのです。




「そこでだ」
王さまは言いました。
「これまでの歴史を一枚の素晴らしい織物にまとめようと思う」
「趣味じゃないですか」
「平和なときにしか出来ない文化活動を推進しようかと思ってな!」
「ええー…」
周りはあまり乗り気ではありませんでしたが、王さまは言いました。
「国中を探して、この計画に相応しい織師を見つけるのだ!」

*

王さまが闘志に燃えていたちょうどその頃。
少女がひとり、家路を急いでいました。彼女は王都の外れに住んでおり、お城に修行に出ている兄に夜食を届けた帰りでした。
いつもより少し遅く通る道は寒く暗く、図らずも足が速まっていく少女です。
しかしそのちょこちょこした歩みの最中、
普段は陽の下で見ている小高い丘の上に、見慣れぬものがあるのに気付きました。
「……テントだわ」




好奇心に駆られた少女は、恐々とテントの周りをうろつきます。
よく分かりませんが、青い色をしているようです。
こんな季節に、テントなんか張るなんて。
不審感と同情心を同時に抱く少女です。
きっとこんなことをするのは、旅人とかだわ。
適当且つ夢の無いではない結論を出したとき―――
「こんばんは」
後ろから声をかけられました。
「君、何か良いもの持ってない?」

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