story

守を探しに行った王子と従者の話*7

声を上げさせないよう口を塞いで王子を引っ張ったのは、
彼が助けようとした相手であるところの従者でした。
ユーリ、と呼びかけようとした王子ですが阻まれています。



「さあ、ここから出ますよ王子」
抑えた声で喋ると、ユーリはアルファの手に首飾りを握らせました。
その瞬間、王子は弾かれたように顔を上げ、従者の目を見ました。
「先程のように首飾りが助けてくれるといいのですが、
 頼りすぎるのもあれですから気をつけていきましょう」
「……わかった」
どこか様子のおかしい王子を不審に思いながらも、ユーリは出口に向かって歩き始めました。

*

アルファの頭の中にはひとつの声が繰り返し響いていました。
心配そうなユーリの声が。
ここを出たらお別れです、という声に出さなかった声が、アルファに伝わってきたのです。
どうしてそんな声が聞こえたのかということよりも、
別れという言葉に対する不安がどんどん大きくなっていきます。
そこでまた、別の声がしました。



「気になるだろう、血を継がぬ王子よ」
穏やかな、しかしまだ微かに幼ささえ残るような、若い男の声でした。
アルファはその声の主をほとんど直感的に悟りました。
「首飾りか」
「“そなたらが呼ぶところの首飾り”だ」
首飾りの声は言いました。
「そなたをそなたの従者と繋いでやったのだ。
 相手の声が聞こえたろう?」
王子は迷いながらも、微かに頷きました。
「私はこの地で成したいことがある―――だが、私一人ではまだ動けぬ。
 そなたが私の足になってくれれば、そなたとそなたの従者をまた繋いでやろう」
「ユーリの心がわかるということか?」
「気になることがあるのだろう」
繋いだ心に聞いてみると良い、と首飾りは言いました。

*

王子の表情が強張ったままなのに加え、
心ここにあらずといった様子になったので、とうとうユーリは彼を問い詰めることにしました。
「何かあったのですか、王子」
何か顔向けできないようなことをされたのでなければ良いがと従者は心配しましたが、
王子から返ってきた言葉は予想とは全く違ったものでした。
呆然としていた王子ははっとするといきなりにっこりして、
「一緒に帰ろうね」
何かに反旗を翻すような力を込めて、言いました。
「約束だ」
ユーリはぽかんとしましたが、思わず頷いてしまいました。

「今の通りだ。私には繋ぎは必要ないよ」
王子が言うと、首飾りはいささか不機嫌そうに音を立てました。
「だけど何かできることがあったらあなたの力になろう。
首飾りが成したいこととは何だ?」



少し驚いたような気配の後、首飾りは言いました。
「頭領のところへ行きたいのだ。
あれは操り人形のようなものだよ、王子」
「操り人形?」
「王が創造主を屠ったとき、創造主はばらばらに散らばってこの世界に隠れた」
首飾りは柔らかい声で語りました。
「その欠片のひとつがあれに憑いている。
妙な大事になる前に止めなければならぬ」

*

できることならやると言ったアルファですが、頭領に会いに行くとなると元の木阿弥です。
「次の機会じゃ駄目か?」
「良いわけがなかろう」
「でも出口も見えてしまってるし」
アルファは薄い明かりを指して言いました。
日が沈んだばかりの空と森の木々が見えています。
もうすぐと足を早めたユーリが地下から出る寸前で立ち止まりました。
出口の外で待ち構えていたのは、頭領と数多の部下たちでした。



「こうなるだろうと思ったぞユーリ」
頭領は言いました。
「大人しく王子を渡せば裏切りは不問に処してやろう」


「裏切り?」
訳が分からない王子が呟くと、
「その娘は我々の一族から王宮に送り込まれたのだ」
頭領は二人を見下ろして言いました。

ユーリは白い顔でアルファの方に向き直り、
「彼が言っているのは本当です」
感情を抑えた声で言いました。
「けれど、私はあなたの従者のつもりで―――」
言ったところで止めました。
王子が明らかな安堵の表情で見ていたからです。

「なあんだ」
繋がったときに聞いた別れの意味を感じ取った彼は、
そんなことだったのかと言わんばかりに言いました。
「ユーリがいつも私の為を思ってくれていたのは、私がよく知っている」

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