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守を探しに行った王子と従者の話*6

「そなた、私の牙を見なかったか」
いきなり問いかけるナギにアルファは驚いて答えました。
「牙?」
「頭領が抜いていったのだ」
そう困っているわけでもない様子でしたが、ナギは続けました。
「放っておくと暴れるからな、連れて行きたいと思ったのだが」
近くにある気配はするのだ、と彼は言いました。

牙が暴れると言われてもぴんと来ないアルファでしたが、
なんとなく地面を眺めながら進んで行きました。
「ナギの生まれを聞いてもいいかい」
「生まれ?」
「この土地で生まれたのかい」
「さあ、昔過ぎて覚えておらぬ」



ナギは以前はもっと大きな蛇だったのだそうです。
しかし身体と分かれてしまい、気がついたら小さな身体で彷徨っていたのだとか。
「大きな身体だったときのことは殆ど覚えておらぬのだ」
「自分のことがわからないのに、いきなり放り出されて怖くなかった?」
思わず尋ねた王子の言葉に、白蛇は不思議そうに答えました。
「なぜ怖いのだ。私は私が何をどうするのか知っている。
 過去など知らずとも気にならない」
「自分が何だかわからなくても?」
「私をナギと呼んだ彼らの前では私は神の使いだろう」
ナギは年若い王子に気付き、微笑みかけました。
「そんなものだ。それで十分なのだよ、アルファ」

*

暗い部屋の鍵のついた棚の中に、もの言う首飾りは仕舞いこまれていました。
頭領はあまりそれに近寄りたくなかったようで、
その価値をよく知らない部下によって館の端に持っていかれていたのです。
その首飾りに触れた者がいます。
ユーリでした。



地下牢には先ほどアルファとユーリを襲った怪物がいたのです。
動き回らなければ危害は加えませんが、
ユーリにはアルファが大人しくしているとは思えませんでした。
特にユーリが捕まっているとなれば。
「仕方のない王子だ」
少しばかり懐かしそうに言ってから、
従者は暗闇の中を静かに駆け出しました。

*

ぞりぞりぞりと岩肌にすれる音と、重いものが移動する音。
かすかなそれを聞きつけたアルファは、急いで近くにあった細い道の中に隠れました。
近づいてきた音の正体は、やはりユーリと見た怪物です。



「あれは普段は牢の中にいるのだね」
アルファが声を潜めて言うと、ナギがぽつりと言いました。
「私の牙だ」
「ええ?」
「大きく育ったものだな」
抜かれた白蛇の牙は短期間に大蛇に成長していました。
既に身体に仕舞いこむのも簡単にはいかないような育ちぶりです。
考え込むナギを眺めていたアルファでしたが、
不意に後ろから引っ張られました。

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