story

守を探しに行った王子と従者の話*4

女たちに引きずられて森の奥へ連れ込まれた王子と従者は今、
女たちの首領らしい男の前にいました。
まだ若い男のようでしたが、顔にはあまり感情らしいものが感じられませんでした。
そのくせうっすらと微笑んでいるような感じで、アルファは少々彼を不気味に感じました。



「こんにちは、御子よ」
「こんにちは」
状況の割りにそれ程怯えもせず挨拶を返す王子に、
首領は少し沈黙してから口を開きました。
「我等のことをご存知かな?」
「王族と余り仲の良くない古い一族だと聞いている」
「それはまた柔らかい表現だな」
首領は目をきゅうと細めると、
「我等は王族に屠られた神の再生を求める一族だ」
笑っているような笑っていないような、不思議な顔でアルファを睨みました。
人形のように光の無い目でした。

*

彼等は時を待つ一族でした。
王族と仲良くしないどころではなく、刻々と転覆のときを図っていたのです。
王家を滅ぼして、世界の中にばらばらに散らばった神を
以前のように甦らせるのが彼等のすべきことなのでした。



「それで私を人質にするのか、それとも見せしめに殺すのかな」
先祖のしでかした話についてつつかれるとどうしようもないので、
その辺は聞かなかったような顔で尋ねる王子です。
すると首領は冷たい目で王子を見ました。
「時期王が森に来ると知って我等は千載一遇の機会だと思った」
相手の表情の変化の無さに王子は暫く気付きませんでしたが、
どうも首領は先祖の恨みとかではなく怒っているようです。
「上手く誘導して王子を手に入れた、が」
配下の女たちも首領の様子に不安を感じたらしく、アルファとユーリを繋いだ鎖がちりちり震えました。
「これはどういうことか」
首領は低い声で尋ねました。
「この子どもは王族ではないではないか」

*

その場はしんと静まりました。
女たちは単純な当惑によって。
アルファは僅かに顔を強張らせたまま呆然としていました。
「何故あなたにそんなことがわかる!」
他の者よりも一拍早く我に返ったユーリは叫びましたが、
「わからぬはずが無い」
首領はなんでもないことのように言いました。
「ある程度の王族なら―――ましてや王の子どもであれば、
 神の呪いが血の中に生きておる」
いまや王族の中でしか語られないような神殺しの呪いの話を、
首領は当然のように口にしました。
「その子どもにはそれが無い。王の息子ではありえぬ」



ユーリはなおも言いつのろうとしましたが、
女たちに抑えられてそのまま部屋の外へ引きずられていってしまいました。
王子はそれを見て我に返ると、
「私の従者をどこへ連れて行くつもりだ」
首領に尋ねました。
「お前の前では話しにくいことを話してもらおうと思ってな」
「ユーリはそんなに地位の高い兵ではない、何も詳しいことは知らないよ」
「それは本人に聞くことだ」
急に不安げになった王子を不審に思った様子の首領でしたが、
彼の「地下牢に連れて行け」との一言で王子もまた連れて行かれました。
アルファとユーリは離れ離れになってしまいました。

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