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守を探しに行った王子と従者の話*2

「で、手がかりが少なすぎやしませんか」
東の地の森に足を踏み入れた二人でしたが、
守の手がかりといえば占い師の言葉だけでした。
大体の場所はいいとして、ヒントが古いふるい生き物だけではいささか心許ないといえます。
「本当だね」
従者の落ち着いた声に、王子は忌憚無く答えます。
「もしかしたら例の一族が守なんじゃないのかな」



二人がいる一帯を治めているのは、二つある王家の血筋のうち、アルファとは別の血筋の王族の縁者でした。
挨拶に行った際に聞いたところによると、森の奥にも集落があるのだそうです。
彼らは王さまが現れる以前から続く一族で、
王さまたちにも特に従う素振は見せていないということでした。
王子の言葉に、従者は眉を顰めました。
「森のことを良く知っているのも彼らでしょうし、情報を得るには良い相手でしょうね」
「そうだろう?」
従者の同意を得た王子は嬉しそうにしました。
「会いに行こうか」
「ただ、あまり王族に良い感情を持っていないようなので―――少々危険ではないかと」
「だけど、他に方法もなさそうだし」
不安そうな顔の従者に、先を進む王子は笑いました。
「二人でいれば何とかなるよ!」
従者は少々困ったような顔をしましたが、
「仕方のない王子だ」
呟いて、王子の後についていきました。

*

さて、ごにょごにょと作戦を立てながら歩いていると、
いきなりアルファが立ち止まりました。
「どうなさいました」
「音がする」
二人で耳を澄ませますが、ユーリには何も聞こえません。
「私にはなにも」
「幻聴なのかな」
従者の言うことを聞きすぎるきらいのある王子です。
「どの方角からの音かわかりますか?」
「ええとね」
よりいっそう耳をそばだてるアルファ。



音は鈴のように水音のように流れます。
「周り中、といったような感じなんだけど」
「それは……」

ユーリが言いかけたとき、
不意に森中が暗くなりました。

*

森の奥の暗闇の中から、何か巨大な黒いものが
二人の方に向かってくるのがわかりました。
大きな物を引きずるような音と共に、二つの大きな目が光るのが見えます。
二人はこけつまろびつ逃げ出しましたが、
追いかけてきた何かはあっという間に背後に迫り、
今にもその中に飲み込まれてしまいそうでした。



すると、アルファの耳に響いたあの音がいきなり大きくなりました。
そこで彼はその音の正体に気付きました。
走りながら懐に手を入れてもの言う首飾りを引っ張り出すと、
大きな黒いものはびくりと動きを止めました。
そして、眼にも留まらぬ速さで闇の奥へ消えていきました。

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