NOVEL

火の鳥の話

さてまだまだ世界がきちんとした模様になっていない頃、
赤いものは気ままに動き回っていました。
赤いものがあんまり熱かったので、赤いものがふらふらする度に、そこに形作られていたものは焼けてしまいました。
しかも赤いものは小さいように見えて大きくもあり、その熱はぶわぶわと際限なく周りに届きました。
一生懸命模様を整えて自分好みにしていた神さまは、
もちろんこれを見て憤慨しました。

「まったく迷惑な赤いものだよ」
神さまは流石創り主だけあって、赤いものを捕まえるとしばし考えました。
「上の方にいればよい。高い高いところに止まり木を作ってあげよう」

神さまは世界の中でも特に特に高いところに、赤いものを止まらせました。
赤いものは熱くてきらきらしていましたので、世界の下の下の方まで明るさで満ちました。
止まり木は真っ黒になってしまいましたが、焼け落ちることは決してありませんでした。

世界に生き物たちが増えてくると、高い高いところにいる赤いものについて首を傾げるものも現れます。
「一体あれは何なんだ」
「明るく照らしてくれるものさ」
「そんなことは知ってるよ。何が光ってるんだって言ってるんだ」
「高いところにいるんだから、鳥だろう」
「何故光ってるんだ」
「火で出来てるんじゃないか?」
「火で出来た鳥か」

神さまは小さい者たちのそんな噂話を聞いていましたが、
久しぶりに赤いものを見に行ってぎょっとしました。
止まり木に止まった赤いものは、まさしく噂の通りに鳥の形になっていたのです。

「どうしてその形になったのか」
神さまが尋ねると、赤いものは言いました。
「望まれたからさ」
赤いものは笑っていました。
赤いものは満足そうでした。
鳥の形になったので、もう際限なく熱が広がっていくことはありませんでした。

ある日人間が一人来ました。
人間は打ちひしがれていましたが、必死で歩いていました。必死で止まり木の下までやってきました。
そして赤いものに言いました。
「力を貸してください火の鳥よ」
人間は精一杯大きな声を出して、それは赤いものに届いていました。
「あなたの力が必要です」

人間は大切なものを奪われてしまったのだそうです。
命よりも大事な何かを取り戻したいのだそうです。しかしそれはひどく手ごわい敵を倒さなければ成し遂げられないことでした。
そこで人間は占い師のところに行きました。占い師いわく。
火の鳥のちからを借りなさい、あなたのその剣に火の鳥の力をこめて、あなたの敵を討ちなさい、と。

赤いものはそんな話には特に興味はありませんでした。
それよりも目の前の人間は、とても強い望みをその目の中に宿していたので、
そちらの方が気になりました。
「私を振るうか、人間よ」
赤いものは尋ねました。
「ならば私に名前をつけなければならない。
 お前の望む姿に私を留めておくための名前を。
 ふさわしい名前でなければ、長くは力を貸せないよ」

赤いものが止まり木を離れると、世界が暗くなりそうだったので、
神さまはぶつぶつ言いながら代わりになる明かりを空に掛けました。
「そんな契約を結んだら、お前の力は弱くなってしまうよ」
どこかにいる赤いものに話しかけます。

すると、ぽわりと神さまの傍らに明かりが灯りました。
「弱くならないさ」
神さまの言葉を受け取った赤いものが、どうやってか言葉を投げ返してきたのです。
「力を放っているのをやめて、使えるようになっただけさ」
ぽわりぽわりと揺れる光からは、そんな言葉が漏れました。
「それは、使われているというんだよ」
神さまが教えてやると、赤いものは笑って言いました。
「そうさ。小さい生きものに使われているんだ。
 小さい生きものだからさ。命も、望みも濃いからさ。
 そのくらいのものでなければ、力を束ねて一つの方向へ持って行けないんだ」
それを知ったと赤いものは言いました。
そうしてまたぽわりと消えました。

神さまは不思議そうに首をかしげ、しばらく考えていましたが、
そのうちにまた自分の作った素晴らしい世界をじっくり眺める作業に戻りました。

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