NOVEL

落ちてきたものの話 07

少年が近寄ってみると、奇妙な模様はほんの少し光を宿したようでした。
「あれ、なんか本当にまじない系のものなのかな。
よく考えたら僕こういうの見るの初めてじゃないか」
少年は模様から数歩離れた辺りをうろうろしながら、じろじろと得体の知れない場所を検分していました。
少年にはまじないの知識はありません。これが魔女の儀式の後だったとしても、それを見ただけでは分からないのです。

「家にも昔まじない師たちがかけたまじないの後は沢山あるらしいけど、もっと綺麗に隠されてるもんなあ」
少年は首を捻って相棒に呼びかけようとしましたが、
相手が目に付くところにいないのに気付いて目をぱちくりさせました。
「おーい……」
あいつも割とこの話には興味を持っていたのかと思ってたぞ。
少年はなんとなく落ち着かない気分で辺りを見渡します。

「……あっ」
いた。
少年はそう言おうとして、途中で口を噤みました。
「どうしたんだ、おまえ鳥刺しにでもなるつもりなの?」
拾いものの彼はすたすたと早足で少年の方へ歩いてくる途中でしたが、
その手には怪我をしているのか死んでいるのか、ぐったりと力を失った小鳥が数羽包み込まれていました。

「手当てしてお礼を貰うんだよね!僕には分かる」
少年が意気込んで言うと、拾いものの彼はまた鬱陶しそうに首を振りました。
「……向こうにも」
拾いものの彼はまた例の落ち着いた声で言いました。
「似たような陣が五つある。側で何羽か死んだり傷ついたりしている」

「……!!」
拾いものの彼の声を聞くのは実に二回目でしたが、そんなことより少年は相手の持ってきた知らせに目を見張りました。
「あまり側に寄らないほうが良いものなのかもね」

少年が言うと、拾いものの彼は頷きました。
それから手に持っていた小鳥を片手で掲げました。
「何するの?」
少年が言うと―――何も答えず、
そのまま小鳥を模様の中に投げ込みました。
「―――うわ!?」

ぴう、と風を切るような音がして、宙を待っていた小鳥の体が二、三度跳ね上がりました。
羽が幾枚か散り、小さな身体は模様の外へと投げ出されます。
少年はびっくりして落ちた小鳥の所へ駆け寄りました。
小さな身体は刃物で斬られたようになっており、元から付いていた傷も合わせて痛々しい様子に見えました。
少年が振り向くと、拾いものの彼は瞬きもせず模様の方を見つめています。

「おまえって結構ひどい奴だね」
少年が言うと、拾いものの彼は少年の方へ視線を向けました。
「確かめるにしても、もう少しやり方を選んだって良いんじゃないの」
「…………」
拾いものの彼は表情を変えずに少年を眺めます。
「……まあ、いいけどさ別に」
少年は肩をすくめて言いました。

「帰ろうかな……小鳥も持ってこうか。おまえは上へ行ってて」
少年は身に着けていた飾り帯に、助かりそうな小鳥を数羽包み始めました。拾いものの彼はきょろきょろしながら段を上がり始めます。
「あんまり得体の知れないものが増えると頭が疲れるよね……と」

少年は身を起こしたところで動きを止めます。
拾いものの彼が段の中ほどで立ち止まっているのです。
彼は眼をじっと見開いて、模様を挟んだ段の向こう側を見ているようでした。

「―――!」
少年ははっとして拾いものの彼と同じ方向に視線を走らせます。
少年の目に黒い人影が映ったのと、足元の模様が強い光を放ち始めたのは殆ど同時でした。
すぐに辺りを劈くような轟音が響き、
後には焼け焦げた窪地だけが残りました。

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