NOVEL

落ちてきたものの話 06

少年と拾いものの彼は、森を歩いていました。

「おまえが落ちてきた水辺はあっちの方」
少年が言います。
「…………」
拾いものの彼は興味なさげでした。一瞬少年が指した方を見やり、すぐに視線を元に戻しました。
もちろんコメントも特にないようです。
以前喋ったのは夢だったのではないかと思うほど、やっぱり彼は無口なのでした。
一言も口を利かずに先に進んでいく相手を見て、少年は呟きました。

「だよね。今は魔女のほうが先だ」


*

その知らせが少年たちの元に届いたのは昨晩のことでした。
少年と拾いものの彼がテーブルの端と端に座って夕食をとっていると、
少年のお付のところへ話をしに来ていた地元の名士が噂をしているのを聞いたのです。

「川向こうの森の中で、妙な模様を使って何かしている妖しげな女たちがいるというのですよ。気味が悪い話ですが、まだ私の配下の者たちではその現場を目撃できず―――」

長い廊下を通り過ぎていくその声はすぐに聞こえなくなりましたが、少年と、多分拾いものの彼も、耳をそばだててしっかりと記憶しました。

「魔女だって」
「…………」
「面白いじゃないか。おまえも興味があるだろう?」
少年の言葉に、拾いものの彼も微かに頷きました。

*

「おまえは本当にいきなり出てきたよね」
歩きながら、少年はのんびりと言います。
「いま屋敷にいる人間はさ、皆僕が選んだんだ。家にはもっとずっと沢山人がいて、僕の世話をしてくれてたけど、僕は彼ら一人ひとりを選んで連れてきた」
さくさくと薄く繁った草を踏んで歩く音がします。それはほぼ一人分でした。少年の足音は遠慮なく響きますが、拾いものの彼の足音は周りの音に紛れるくらい、微かにしか聞こえません。

「僕が選んでないのはお前だけだね」

少年が言って、拾いものの彼が立ち止まりました。
少年も拾いものの彼の隣で歩みを止めました。

二人の足元から数歩先へ進むと、地面が一段下へ下がっていました。
そこから一歩でまた一段。更に一歩でまた一段。
そうして段々が続いていき、暫く降りたところにはちょっとした運動でも出来そうな、小さな広場があったのです。

「昔集会でもしてたとこなのかな」
少年は言いながら、目を細めて広場を眺めました。
広場には円や直線を重ね合わせた奇妙な模様が幾つも描かれており、
それはまさしく昨晩の話にあった魔女の噂の場所なのでした。

inserted by FC2 system