NOVEL

落ちてきたものの話 05

さて、その日は雨模様の生憎の天気でしたが、少年は窓辺に腰掛けてなにやら考えていました。
屋敷の外はのどかな村で、畑や小さな家が連なっています。
曇った空のせいでくすんではいますが地面の色も暖かで、遠くまで続く平らな景色の向こうには、ぼんやりと大きな街が見えるようでした。

少年は遠くを眺めていましたが―――
かたり。
微かな音にはっと顔を上げ、
それから腕を振りました。

部屋の入り口に例の拾いものの彼が立っており、
その横には少年が投げた小さなナイフが刺さっていました。

「…………」
戸口の彼は一度瞬きをして、黙って少年の方を見ていました。
「なんだ」
少年は若干戸惑いながら言います。
「一人で来たのか?」
相手の返事は頷きが一回でした。
「そうか……」
少年は目を細めて壁にもたれかかると、つまらなそうに笑うという奇妙な真似をしました。

「僕はいつになったら帰れるんだろうな……」
少年が小さく言うと、戸口の彼は部屋へ入ってきて、扉をぱたりと閉めました。
「おまえ知ってたかい?僕は偉いんだよ」
少年は言いました。
「偉いから色々面倒くさいんだ。危なくって家にいられなくてさ」
特に返事を求めているわけでもなく、いつものように独り言のように。
「前までは皆と同じだったんだ。何も変わっていないはずなのに、どうして外れてしまったんだろう」

少年は立ち上がると、話を聴いていた彼の方へ歩き出します。
そしてそのまま相手の横を通り過ぎ、壁に刺さったナイフを抜いて、大事そうにまた鞘に納めました。
随分興味深げに壁の傷跡を眺めた後、部屋を出て行こうとします。

「違っているのは」
聞いたことのない落ち着いた声に、
「あなただけではない」
少年はゆっくりと振り向いて部屋の中を見ました。
それが拾いものの彼の声だということに気付くまで、しばらくかかりました。

「おまえ」
少年は何と言って良いのか分からず、一瞬黙っていましたが、
「……うん」
小さく頷きました。
それから、とりあえずそうしようとしていた通り部屋を出ました。

「……僕より若いのかもしれない」
少年は意外にも高い拾いものの彼の声を思い出して、ちょっと考え込みました。
そんなに暗い気分ではありませんでした。

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