NOVEL

落ちてきたものの話 04

少年は暇をもてあましていたので、彼の拾いものの所へ足しげく通いました。
一人で今日の天気から屋敷の近隣の噂話まで、ひたすら喋っていました。
相手は相変わらず一言も喋らず、難しい顔をしているだけでしたが。

「あまり得体の知れない者と親しくされては危険ではありませんか」
お付きの者が幾度か窘めましたが、少年はちょっと肩をすくめるだけです。
「どこぞから送り込まれた刺客かもしれません」
なおも彼らが言い募ると、
「傷だらけにして?手が込んでるね」
少年は言って、にやりとしました。

「逆に知らない奴のが安全さ。そうだろう?」

*

拾いものの彼は医師が困惑するほどの速度で回復していきました。
一月もしないうちに、ずたずたに裂けていた背中の傷は塞がり、屋敷の中を歩き回れるほどになりました。
といっても彼は好き好んでうろつき回ったりはしないのですが。
「傷は残るんだ」
少年は診察に来た医師に尋ねました。
「そうですね、流石に全部元通りとは」
厳密に言えば元通りとどう違うかなんて本人にしか分かりません。

少年には特に遠慮というものがありませんでしたので、診察にも興味津々で立ち会っています。
拾いものの彼の身体は薄く平らで色白でしたが、特に普通の人間と変わったところは見られません。
診察から解放されるとさっさと服を着て、腕を振ったり腰を捻ったりして身体の調子を確かめているようです。
そのまま火を吐いたり空を飛んだりすれば面白いのですが、残念ながらちょっと歩き回ってまた窓辺に座り込むだけでした。

「おまえ、完全に治ったらどこへ行きたい?」
少年は窓の外を眺める拾いものの彼に問いかけました。
外の世界を懐かしんでいるのかと思いきや、覗き込んだ相手の目にはあまり感情が感じられません。
「もといた場所へ戻るのか?それともどこか別のところが良いのかな」
少年は一人で首を傾げます。

「待ってる親兄弟がいるならそこでも良いし、
天涯孤独だって言うならまあ、ここにいたって良いし。
おまえがどこから来たのか知らないけど、僕の土地はそこらじゅうにあるから、どこにでも送っていってやれるよ」
僕は親切だからね!

と少年はそんな風に胸を張りましたが―――
話し相手の彼の顔を見て目を丸くして固まりました。

彼は声を出さずに、小さく笑っていたのです。
殆ど動いていない表情にも拘らずよく分かる、その微笑に浮かんだ色は―――
どうやら、自嘲のようでした。

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