NOVEL

落ちてきたものの話 03

少年は椅子に座って、なにやら古げな巻物を眺めていました。
何かの報告書のようで、慌てて書いたような細かい字がびっしり書き連ねられています。

「今より三代前の王さまの頃にさ、魔女が現れたんだって」
「…………」

少年の声に答えは返ってきませんでした。
しかし彼には特に気にする様子もありません。
また口を開いて、話しかけている相手の方を見ました。

「王さまはその出来事に興味を持ってね、こっそり探し出して捕まえたそうなんだよ」
相手は無言です。
「だけどね、王さまに従わず、無礼な態度を取るそいつを火刑にしようと外へ引っ立てたらさあ」
少年は喋り続けます。
「空を飛んで逃げちゃったんだって」

*

さて。
少年は目を覚まして暴れだした拾いものに話しかけましたが、
相手は喋れないのか喋るつもりがないのか、まったく返事をしてくれませんでした。
それでも少年が警戒心に満ち満ちた彼に辛抱強く言葉をかけていると、
暴れずに医者に手当てをさせ始めました。

最初に暴れたことはやはり無茶だったようで、一度休むと少年の拾いものは死んだように眠り続けました。
そして目を覚ました後は、もう暴れたり逃げたりする素振りは見せませんでした。
単にしたくても出来なかっただけかもしれませんが。

少年は自分の拾いものが起き上がったと知ると、早速駆けつけました。
一体彼が何者で、どこから降って沸いたのか知りたかったからです。
相手の意識がしっかりしていると見るや、好き勝手に話しかけだして、周りの者を呆れさせるような有様でした。
しばらく得体の知れない拾いものを見張っていた屋敷の者たちも少しずついなくなり、
部屋の中にはつらつらと喋る少年と、それを眺めている拾いものの彼だけが残っています。

*

「その後王さまはね、王都から地方の隅々まで使者を遣わして、
その辺の領主とかにお触れを出したんだ。
妖しい奴がいたら捕まえて連れてくるようにってね。
暫く王都はそのうわさで持ちきりだった」

死んじゃったからもうそのお触れは無効だけど、と少年は言って、
ベッドの上で身を起こしている素性の知れない彼に言いました。

「そんなことがあって、僕は小さい頃からそういう"怪しい奴"に興味があるんだよ。
お前がそうだったらちょっと嬉しいんだけど」

ベッドの上の彼は、眉間の皺を濃くすると、面倒くさそうに首を振りました。
そう?と少年は首を傾げました。

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