NOVEL

落ちてきたものの話 02

水やその水が入っていた器、薬瓶や包帯といったものがばらばらと散らばった部屋の中は少々歩き辛そうだったので、少年は入り口の所に立って中を眺めていました。
乱れた寝床には誰もおらず、その前には医師がのびています。
まわりを右往左往する医師の助手たちが当惑と怯えの混じった視線で見上げているのは、
先程水辺で少年が見つけた拾いものでした。

「お前、良くそんなところに立てるね」
少年は倒れた医師や他の人々に関してはとりあえず置いておいて、
彼の拾いものに話しかけることにしました。
拾いものは器用にも少し高い位置についた窓の縁に立っており、
やはり少年と同程度の年と思われる若者でした。肩も胸も細く薄いようでしたが、手足の様子を見るにしなやかな身体をしています。
背の傷が痛むのか、少し身体を傾かせながらも、力強い―――少々強すぎるくらいのしっかりした目線で少年たちを見下ろしています。
先程の傷の様子では暫くは身動きも取れないのではないかと思ったのですが、
それが読み違いでなければ脅威の体力、もしくは精神力でしょうか。

「一体何をしたんだ?随分警戒してるみたいだけど」
少年が尋ねると、医師の助手たちは不服そうに首を振って言います。
「何もしておりません。傷を診ようとした瞬間に目覚めて暴れ始めたのですから」
「別に手当てしなくても平気だって言うなら良いけどさあ……」
少年は面倒くさそうに伸びをすると、ついでのように窓辺の拾いものを眺めました。

彼は喋りませんが、おそらくこちらの言うことは理解しているのだろう、と少年は思いました。
少年の問いに答えそうな人間を判別しているようですし、会話に耳をそばだてている様にも見えます。

「どういたしましょう」
「うん」
少年は問われて一度頷きましたが、くるりと集まった人々の方を向いて言いました。
「僕があいつと話してみよう。お前たちは出て行くと良いよ」
「はっ!?」
人々は思いがけない言葉に変な息を出しましたが、危ないの危険だの暇人だの騒ぎ立てても主が引かないようなので、閉めた扉の向こうに張り付いていることを条件に合意しました。

ぱたり。
「客間の扉の音は重厚じゃないね」
そんな風に言いながらまた改めて向き直ると、窓辺の彼は不審げに少年のことを眺めました。

「お前さ」
少年は軽い口調で言いました。
「空から落ちてきたの?」

inserted by FC2 system